ツービート
ツービートは1972年(昭和47年)結成、浅草デビューを果たす。
私が浅草演芸ホールで観たのは1974頃だった。浅草演芸ホールは収容人数が300人程だったと思うが当時観客は30人もいなかった。漫談、ものまね、落語など数々の演芸が催されていた。
前座であるツービートの出番は早かった。ビートきよし&ビートたけしの二人の漫才はたけしが田舎育ちのきよし(山形県最上町)を徹底的にいびるものであった。きよしと同郷の私は大うけ、さらにたけしは舞台から私を毒づいてきたではないか。
「この二人は売れる!」
ツービートの舞台が終わった。暫くして私はトイレに行く為に席を立った。すると客席最後方にある手すりに手をかけた今まで目の前の華やかな舞台にいた、たけしの姿があった。私は先輩芸人に向けられた、たけしの真剣なまなざしに畏怖の念を覚えた。
「この人はすごいぞ!!」
この頃は全く評価されなかった二人だが広島岡山漫才のB&Bに触発されたこと、さらに図々しい田舎者や権力をかさに着た人間を徹底的にこき下ろす師匠深見仙三郎の芸風を採り入れ融合、自らの芸風を作り上げることになる。
ビートたけしという人間の下積み時代の軌跡の一端に触れたことはその後の私の人生に影響を与えた。学ぶ力、真似る力、整理する力の大切さを教えられた。
人間の持つ「味」は年齢を重ねるだけで出るものではないだろう。多くの経験、その中でも失敗により深みを増す気がする。時におごることもある。過激な表現に頼ることもある。しかしそれとて人間だから出来たことではないか。
私はファンでも何でもないが、あの演芸場での出来事を時々思い出すことがある。それは自分が辛くなった時が多い。もう少し頑張って時の経つのを待つことにしよう、と思い直す。