庄内ボーイズ・活動日誌

山形県庄内地域で活動する野球チーム『庄内ボーイズ』の活動内容です

野球は危機か!? ~一人一人を大事に育てよう~

      野球は危機か!?

            ~一人一人を大事に育てよう~

 

 グランドでは小学生が野球に興じている。確かに以前に比べれば選手は少ないように思うが、あちこちでこの風景を見かける。コロナ禍とはいえ日本シリーズには多くの観客がタオル片手に応援している。また図書館のスポーツコーナーには野球関連の本がズラリと並んでいる。人気の高さを伺わせる。

  

 現在の高校野球では優秀な選手が有名校に集中、100人を超す部員が鎬を削る。一方、選手の集まらない公立の学校は連合チームを組んでいる。高いレベルで自らを高めたいと思えば当然の傾向で、この構図に物申すつもりはない。しかし大所帯のチームでは言葉は悪いが、選手が「飼殺し」状態になることは否定できない。

 野球部員の中には直線を走らせたら滅法速い選手や長距離走に秀でた選手がいた。腕力はもの凄いが捻る動作の苦手な選手もいた。その能力・特性を野球以外で活かせないものかと歯がゆい思いをしたことがある。

他校でプレーしたらいい選手になっていたのになぁ~。

他の競技なら素晴らしい能力を発揮したのになぁ~。そんな選手は実に多い。

 

 2021年日本の全国高校野球選手権への参加校は3603校であった。韓国の高校野球はシステムに大きな違いはあるが、実施している学校は80校である。韓国と同じく学歴社会の台湾では親が勉強以上に部活に熱中することを喜ばない。文武両道は小学校までという。

 

 2019WBSC  U-18ワールドカップが韓国で行われた。世界から12の国と地域が参加した。この時の侍ジャパンの投手陣は佐々木朗希(現ロッテ)、奥川恭伸(現ヤクルト)、宮城大弥(現オリックス)らである。

 

この時の上位の成績は次の通りである。

優勝:チャイニーズ・タイペイ

2位:アメリ

3位:韓国

4位:オーストラリア

5位:日本

6位:カナダ

  生活様式の違いや考え方の多様性から、自分の身体能力や性格を活かしたスポーツが生まれることは至極当然である。

 日本は野球選手万能の時代の呪縛から今ようやく解き放たれ、自分に合った自由な発想でスポーツを選択できるようになった。つまり本来の姿に戻っただけの事に過ぎない。

 また、幾多の優秀な野球人が時代に翻弄され、その理不尽さから大好きだった野球を断念した過去の歴史に目を背けることはできない。今こそ一人一人の選手としっかり向き合い、医科学に基づいた正しい指導をするときである。

 指導者は自己のエゴを捨て、刹那な快楽や優勝劣敗の考えを捨て、選手の長い人生の道先案内人でありたい。それがやがて日本野球界のレベル向上につながることだろう。 

                            By 佐藤 繁信

                                2021.11.25

   

アンリトゥンルール(Unwritten Rules)―暗黙の規則―

    アンリトゥンルール(Unwritten Rules)

                  ―暗黙の規則―

 

 野球というよりスポーツそのものに全く興味のない研究者は「野球なんて、勝ちたければエースに早いうちからぶつけてしまえばいいんだろ」とこともなげに私に言い放った。あまりにもストレートなその言葉を時々思い出すことがある。確かにそうだ。妙に納得した自分がそこにいた。

 スクイズの場面が来た。バッテリーはどこでウエストするか。固唾を呑んで見守る。すると投球は打者の背面に投じられた。素晴らしい!見事なスクイズ外しである。

 ただ、待てよ!?

 野球の国際大会が開催されるたびに話題になる言葉に「アンリトゥンルール」(不文律)がある。要するにルールブックに載っていない「暗黙の規則」である。

 野球でよく聞くのは、大差で勝っているチームは盗塁を試みてはならない。大差で勝っているチームは送りバントスクイズをしてはならないなどがある。こうしたアンリトゥンルールを知らない日本選手は国際大会で、外国人選手に時々手痛い報復行為を受けることがある。

 日本のスポーツマンシップは、どんなに大差で勝っていても最後まで手を抜かず全力プレーすることであり、手を抜くことは傲慢なチームと批判される。
 どちらが正解か!?日本には「武士の情け」「情けは人の為ならず」の言葉がある。日本人はその精神を大切にしたい。

 過去の国際親善試合で日本の投手は投球間隔が長く試合も長いと指摘された。これはサイン交換や相手がサインを盗むことを前提に、盗まれないようにするために複雑にならざるを得ない結果である。しかし、国際大会ではこの盗む、盗まれないためという考え方がフェアーではないとされる。ある時、日本の打者が捕手をチラリと見たところ、相手監督は「こんなチームとは親善試合はできない」と選手をベンチに引き揚げさせたことがある。

 

 思えば日本では、野球少年がルールの精神や歴史を学ぶ機会がまったくない。

 NPB(日本プロ野球)では新人選手研修会が毎年催されている。2021年はアンチドーピング、アンチ薬物乱用、暴力団の実態と手口など、どれも重要な問題ではある。しかし、スポーツマンシップや野球の歴史といった項目は見当たらない。相撲界には相撲教習所がある。そこでは入門すると相撲の歴史、実技、相撲甚句、一般常識などを学ぶという。

 

 相手がいなければ野球はできない。ならば相手に最大の敬意を払うべきである。大量得点にも関わらず、更に盗塁やスクイズで加点することは「死者に鞭打つ行為」で相手への敬意はない。相手への敬意こそが野球というスポーツをより楽しいものにする。そこにアンリトゥンルールの存在価値を見出すことができる。

 本来スポーツの目的は「楽しむこと」「健康になること」「ルールを守ること」にある。それは日本の少年野球の現状とはあまりにも対峙した考え方ではないか。

                           2021.10.28 By佐藤 繁信

選手の旬とチーム

       選手の旬とチーム

 

 

 家庭菜園と中学生の野球指導を同じ頃に始めた。

 

 野菜作りの知識は全くなく、とにかく種や苗を購入し植えてみた。やがて種は芽を出し、苗は育つ。中学生の野球指導は、これまでの知識と経験を伝えることにした。しかしどちらも甘かった。

 

 野菜作りをするにはあまりにも基礎的知識が稀薄すぎた。

 

 中学生の野球指導をするには成長痛やオスグッド・シュラッター病、発育型の肘痛などとの向き合い方が不十分であった。

 そして野菜に「旬」があるように、選手一人一人にも「旬」があり、それに合わせた指導法が必要不可欠であることを痛感する。

 

 中学生の学年の違いによる体力・身体能力・学力の差が想像以上に大きいことに戸惑った。一律の指導の限界を感じた。

 

 野菜を育てるのに最も重要なことは土作りだという。ならば上手な野球選手を育てるための土作りとは何か。

 

 野菜は肥料を入れ過ぎても水をやり過ぎてもいけない。その種を蒔く、苗を植える時期も当然異なる。また同じ土壌で作り続けると土も痩せてくるし、病害虫も発生しやすくなる。

 では野球練習の教え過ぎとはどこまでか。バント守備は教えたい。外野からの連係プレーも重要。トレーニングがハード過ぎては逆効果だろう。ウエイトトレーニングは?走り込みの必要性はあるか。

 オーバーロードは故障のリスクが増すばかりだろう。故障や障害だけはどんなことがあっても避けたい。選手を育てるということは、指導者の自己顕示欲を表現する場であってはならない。あくまでも選手の大いなる将来のためでありたい。

 走攻守といった野球の全ての項目において平均点以上を求めてはいくら時間があっても足りない。ウィークポイントがあってもいいのではないか。

 何といってもこの時期、選手たちの本業は野球ではなく学業にある。

 とは言えチームに勝利は求められる。勝つチーム作りと多様性を認める懐の深い指導とはどこにあるのか。各学年の中にも早生の選手もいる。晩生の選手もいる。それぞれ「旬」の時期の異なる選手をどのように指導すればいいのだろうか。

 

 四本足で大地を踏ん張り野菜や草と向き合うと色々なアイデアが浮かんでくる。

 野菜にはそれぞれの野菜にあった育て方がある。野球指導もその選手に合ったそれぞれの方法があり、タイミングがあるだろう。

 

 今、中学生は乾坤一擲の勝負をする時ではない。出来ないからと怒ってはいないか。見放してはいないか。横並びの指導をしてはいないか。

 その後の人生にとって最も大事な中学生時代を預かる指導者の責任は実に大きい。

 土壌をしっかり作りたい。

 矛盾と葛藤の日々は続く。

                        2021.10.7 By 佐藤 繁信

軟骨の増殖を待つ

  高校時代、肩痛に悩まされていた私は病院へ行った。そこで処方されたのが「ヒルドイド」であり、その後「モビラート」へ変わったように記憶している。

 ヒルドイドやモビラートはいずれもドイツ製の鎮痛剤で、当時としてはかなり高価な薬であった。サロメチール(日本製)もあったが、私は医学先進国ドイツの薬を塗布するというだけで治ってしまったような気になった。いわゆる「病は気から」である。確かにプラシーボ(偽薬)効果?はあったが、実際は悪化の一途をたどっていたと今になって思う。それはより刺激的な効果を求め「ヒナルゴン」を塗布するようになったことからもわかる。塗布後の灼熱感は半端ではなかった。  

 

 あれから半世紀が過ぎた。野球少年の「肩・肘」の故障増加は大きな問題である。ある病院に診断に来た中高生41%が肘の故障の既往歴があったという。実際に指導してみるとこの数字が決して大げさな数字でないことがわかる。今の練習は、障害を起こすために練習をしていると言われても何の言い訳もできない。

 

 指導者は肩・肘に違和感のある選手が医者に行くことを半ば嫌う。レベルの高い選手ほど障害を訴える選手が多く、次の試合に差し支えるからである。そして医師が告げる言葉は異口同音に「絶対安静、ノースロー」であることを知っている。

 

 医者に行った選手に「どんな薬貰った?」と聞いた。「何もくれなかった」と選手は言う。その代り理学療法士によるリハビリの手順が示される。

 

 考えてみれば損傷した箇所に何を塗布しても効果はないだろう。肘の故障の一番の原因は成長過程にある軟骨の増殖を妨げることである。静かに軟骨の増殖を待つことが一番の治療法で、時間が最高の処方薬であろう。

 

 最も良い少年野球の指導者はこうした故障した選手に対し、「待つ勇気」を持つことだろう。

 

 肩・肘のケアに必死に取り組んだあの頃を思い出し、これは医学の進歩というより「変化」ではないかのと感じた。

                           

                             By 佐藤 繁信

                               2021.9.9

OHIO!(おはよう!?)

       OHIO!(おはよう!?)

 

 ここはフロリダ州ベロビーチにあるドジャースタウン。現在LAドジャース星野監督率いる中日ドラゴンズのスプリングキャンプが行われている。

 フロリダの空はいつもどこまでも抜けるような青空だが、今日は珍しく曇り空、今にも泣きだしそうである。

 タウン内では早朝にもかかわらず、すでに数人のファンがジャッキーロビンソン通りの散策を楽しんでいる。通りに面したハンバーガーやコーンを販売するショップの店員が、皆忙しそうに準備に追われている。春休みのアルバイトと思われる女子高生の、きびきびとした動きと笑顔が爽やかである。

 すると、私達を見つけた一人のいかにも陽気なアメリカ娘が大声で叫んだ。

 「OHAYO~!(おはよう!)」

 次々に娘たちが「OHAYO」「OHAYO」と手を振ってくれた。

 星野監督の人気もあり日本人観光客も多いのだろう。どこから見ても日本人にしか見えない私達に精一杯の愛嬌を振りまいてくれた。

 すると一緒にいた仲間の一人がアメリカ人に勝るとも劣らない大袈裟なジェスチャーを交え、真顔でこう叫んだ。

 「We are not from Ohio!?from Japan!」

(私達はオハイオ州から来たんじゃないよ、

日本だよ。)

 それを聞いた娘たちは一斉に手をたたいて大声で笑いだし、大喝采となった。

 屈託のない娘たちの笑顔が今日の曇り空を吹き飛ばし、私たちの心にはいつもの青空が広がった。

                             2021.7.7 佐藤 繁信

  *1988年2月大リーグスプリングキャンプ巡りでの珍道中の一コマである

村上豊氏を偲ぶ

         

        村上豊氏を偲ぶ

                ―「科学する野球」著者―

 

 「科学する野球」の著者村上豊氏をご存知だろか。

 初めて出会ったのは1987年11月23日創設間もない花咲徳栄高校(埼玉県)のグランドであった。私はこの時、村上氏への知識はほとんどなく、今までと違う野球理論を提唱する変わった人物という噂程度であった。

 ところが実際にお会いし、話を聞くと全く違う世界へと引き込まれる自分がいた。

 指導者としての壁を感じていた私は、1994年5月、高校生への指導を依頼した。

 

 指導はグランドではなく、教室での座学から始まった。

「大体、監督をやっておられる先生は私の話なんか聞こうともしないで、自分でやってこられた経験と知識だけで、物理に反したことを平気で教える人が随分多い」

そんな辛らつな言葉から講義は始まった。

 

 当時の私の感想である。

 ―ほとばしる情熱と卓越した野球理論、それは私の野球指導者としての常識をはるかに超えたものであった。野球指導書、プロ野球選手による野球教室、専門家による野球講習会、残念ながらいずれも私を満足させるものではなかった。むしろ参加すればするほど、疑問と矛盾だけが沸き上がってくるのであった。

 その多くの疑問のカギを開けてくれたのが村上氏であった。

 今思えば1988年の大リーグ・スプリングキャンプ巡り(米・フロリダ州)から私の日本野球への疑問は始まった。こうした行動が村上氏と邂逅するきっかけになったことを幸運に思うー

 

 講義の内容の一部を羅列する  

  • 回転と捻り 
  • 野球動作の基本は捻って捻り戻して捻る 
  • ウエイトトレーニングはヒマ人のやること ●伸筋と屈筋 
  • 上半身と下半身のケンカ 
  • 慣性モーメント
  • 日本人の「入」と大リーグの「人」の違い
  • 現代野球の元祖ベーブ・ルース「なぜあんなに飛ぶのだろう?」 
  • ステップについてー打つためにステップする選手はヘタクソ

                           等々

 

 「科学する野球」全8篇を読破しても、内容を理解することは至難の業である。この時の講演はそれらを集約した高校生にも理解しやすい内容であった。

 この講演の1年後1995年7月、村上氏は77歳でこの世を去ることになる。

 その後村上氏の野球理論は今日まで正しく評価されることなく月日が流れていく。

 1995年は野茂英雄投手がある意味日本球界に背を向けてアメリカに渡った年でもある。野茂投手やイチロー選手の体の使い方を「正しい」と理論的に評価、説明できた人は当時村上氏を置いて他にはいなかった。

 私の手元にこの時の講演記録や東京・三田のご自宅から頂いた遺稿がある。後世へ残すべきと考えている。

                           2021.6.19 By佐藤 繁信

 

ピッチスマートに思う

   ピッチスマート

 

 先日少年野球を観戦した。イニングが終わると球場には「〇〇投手、先ほどの投球数20球、合計40球です」とアナウンスの声が響く。

 こうした日本の投球制限は2014年MLBメジャーリーグベースボール)が医師など専門家の意見を取り入れて提唱した「スマートピッチ」(硬式ボールを使用した場合のガイドライン)を参考にしていると思われる。

 世界的に見ても日本の小学生の肩・肘の故障(要因の一つは1年中野球漬けの毎日)は多いという。少年達の体を守るのは大人の責任である。一つの方向性として投球制限は正しいと思う。

 傍らで次の試合に備える両チームの練習が目に飛び込んできた。ノッカーが試合では見られないような鋭い打球を外野に飛ばしている。選手達は必死にそのボールを追い、返球している。

 しかし、グラブの使い方も然ることながら、投げる姿に愕然とした。顔をアッチ方向に向け体が開く選手、肘が極端に下がった選手、投げる腕が伸びたままの選手、手のひらでボールを押し出す選手等々。

 これは投球制限以前の問題ではないか!?

 アメリカの長いベースボールの歴史の中でなぜ今「投球制限」が必要になったか不思議に思う。近年になり少年達の肩・肘の故障が急激に増えたのだろうか。少年達の野球環境に何か変化が起きているのだろうか。

 以前、アメリカのベースボールの指導者は目先の勝利ではなく、将来を見据え、いかに有能な選手を輩出するかを目標にしてきたという。また少年たちはベースボール以外にバスケットボール、フットボールなどをシーズン毎にそれぞれバランスよく楽しんでいた。

 それが現在は全米各地の温暖な地で一年中色々な大会が催されるようになった。そこで勝利し、スカウトの目に留まることが最優先され、無理をする選手が多くなったという。 

 当然レベルの高いチームは試合数も多く、練習量も多くなる為、肩・肘の故障の発生率が高くなってしまう。

 大人の「マネー」の為に少年達の健康が犠牲になってしまったということか。

 しかしMLBはそうしたアメリカの少年野球を取り巻く環境変化を放置することなく迅速に対応した。それが「ピッチスマート」である。

 「投げ過ぎ」と「正しい投げ方」は並立して考えるべきではないか。前述のように正しいと思われる投げ方をしている少年は残念ながらほとんどいなかった。理にかなった投げ方により肩・肘へのストレスを軽減し、予防することは指導により十分可能であろう。

上腕三頭筋の向き ②背筋の収縮 ③後ろ脚の折れ ④ステップの仕方 ⑤前足の閉じなどのチェックを十分に行いたい。

 少年野球に遠投は本当に必要か。全力投球は必要か。100%の投球ではなく70%の投球強度で故障は防げるというデータ(「野球医学」の教科書:馬見塚尚孝著)がある。20M程の距離を素早く、しかも正確に投げる方法を模索したい。

 人生100年時代を迎えようとしている。10代での腕の故障は長い将来の健康を阻害することになる。元球児の合言葉「もう肩、上がらない」とどこか誇らしげ?に肩を回すしぐさはおかしいことに気がつきたい。公園で孫と楽しくキャッチボールが出来ることが理想であり、そうした姿こそが日本の野球人口減少の歯止めになると信じる。                        

                          2021.5.28 By佐藤 繁信

 *4年前に「THE  ARM(剛腕)」(ジェフ・パッサン著)という本に出会った。強い衝撃を受けた。その日からしばらく指導に対する自信を失ったことを思い出す。そして少年たちを手術台に送ってはいけないと誓った。