庄内ボーイズ・活動日誌

山形県庄内地域で活動する野球チーム『庄内ボーイズ』の活動内容です

プライベートレッスン

     プライベートレッスン

 アメリカの子ども達を取り巻くベースボール事情はメジャー顔負けの競争システムである。高額なプライベートレッスン、強豪チームへの選抜試験、落ちれば移籍は当たり前。そこには公平・平等を重視する日本の少年野球は存在しない。そもそも公平・平等の概念が全く異なる。

 

 昨年10月9日のスポーツ報知(記事から抜粋)『スポーツの派遣型個人指導サービス「ドリームコーチング」が注目を集めている。元プロ野球選手や五輪代表選手らトップアスリートからマンツーマン指導を受けられる。料金はコーチにより異なるというが1時間1万5千円ほどという』

 

 日本の少年野球も「プライベートレッスン」の時代である。

 

 昨年のドラフトでDeNA育成3位で指名され入団した大橋武尊選手。彼は東京・銀座中学出身で中学時代はチームに所属せずプライベートレッスンを受けていたと聞く。 

 その後アメリカ・フロリダ州にある「*IMGアカデミー」に進んでいる。アノ錦織圭選手が出身ということで有名になった施設である。現在、前巨人軍上原浩治投手の長男・一真君(15歳)も所属しているという。

 

 世界のトップアスリートへの道として羨望を集めるIMGであるが、何といっても気になるのは受講料である。これがナント年間900万円とか。凄い!唸るしかない。

 大橋選手が中学時代いくらのレッスン料を払ってどのレベルの人に指導を受けていたのかはわからない。10年ほど前アメリカでは1時間100$程度のレッスン料が相場だと聞いた。1時間1万円前後と思えばいいだろう。子どもの為ならそれくらいはと考える親もいる。決して不可思議とは言えない。

 

 日本の中学硬式野球・ボーイズやシニアに所属する選手の多くは土日・祝日が練習日である。最近は平日にプライベートレッスンを受けている選手もいると聞いた。所属チームの月謝と合わせると相当な金額になるだろう。

 

 余談になるが、2018年東京大学が実施している「学生生活実態調査」の結果によると、東大生の親の60%が世帯年収950万円以上とある。金銭的な裕福度と学力の相関関係が証明されたというものである。 

 

 日本は「地方の時代」と言われて久しい。しかし、中央と地方の経済格差は拡大の一途をたどっている。そしてその経済格差は教育・文化・スポーツ格差とイコールでもある。

 どこか寂しい思いを感じながらこの現実から逃れることは出来ない。いや、出来ないのだろうか。

          2022.3.21 By佐藤 繁信

 

*参考文献「アメリカの少年野球はこんなに日本と違っていた」(径書房:小国綾子著)

*IMGアカデミー:1970年代前半に創設された総合スポーツ教育施設

練習はどこも同じ!?

                                         練習はどこも同じ!?         

 

 長年高校野球ファンの知人の兄は「色々な高校野球の練習を見てきたけど練習なんて大体どこも同じだよ」と言い切る。そして最後にこう締めくくる。

 「一番大きな違いはここだよ、ここ!」と何度も胸を叩くのであった。 

 彼は駒大苫小牧高校が北海道に二年連続深紅の大優勝旗をもたらした時期の練習風景を思い出しながら語ってくれた。そして庄内の子どものメンタルの弱さを指摘。

 「人が好過ぎて欲がないんだよ」と嘆くのであった。 

 2004年の駒大苫小牧高校の優勝メンバーはほとんどが北海道の選手達で占められ、底辺には「北海道をなめんなよ」という強い反骨心があったと聞く。庄内の子ども達に全国制覇は出来ないのか。お人好しではいけないのか。

 山形県高校野球を見てみよう。ここ数年各大会の県ベスト4のレギュラー選手の約7割を県外中学校出身者が占めている。しかし、ここでその善し悪しを問題にしようとは思わない。15歳という難しい年代に高い志を持ち、親元を離れ生活することは評価に値する。勝つことへの執着心が親元から通う選手よりも高くなるのは自然なことである。ここ一番での勝負強さの心理の一端であろう。

 こうした県外選手と県内選手を技術面で比較すると県外選手の特に打撃力の力強さに驚かされる。打球の飛距離、スピードが全く違う。守備力を見てもグラブさばき、肩の強さも残念ながら違う。

 高校野球の指導をしている時、県外強豪校のノックに三日間一緒に混ぜてもらった。一日目の練習ではグラブの使い方、足さばき、送球のスピードの違いは歴然であった。二日目、それなりに追いついてきた気がした。三日目には見分けがつかなくなり、センスのいい選手は強豪校のレギュラーと遜色のない動きを見せるようになっていた。正に百聞は一見に如かず、同じ年代の選手達に大きな違いはないとつくづく感じた。

  技術は何とかなるのではないか!?

 確かに高校野球の練習はキャッチボール、バッティング、フィールディングと続きどこも同じように外見的には見える。ただその一つ一つの練習への取り組み方、明確な目標の持ち方の違いがそこにあるのだろう。目に見えない人間の内面を推し量ることは難しい。

 指導者の力量が問われるのは目に見える技術よりも目に見えない内面の動きをどう育てるかにあるようだ。意識の違いや心の問題を環境、地域性、気質などで言い訳するのは指導者の度量の狭さに過ぎない。

 

                          2022.2.27 By佐藤 繁信

野球は危機か!? ~一人一人を大事に育てよう~

      野球は危機か!?

            ~一人一人を大事に育てよう~

 

 グランドでは小学生が野球に興じている。確かに以前に比べれば選手は少ないように思うが、あちこちでこの風景を見かける。コロナ禍とはいえ日本シリーズには多くの観客がタオル片手に応援している。また図書館のスポーツコーナーには野球関連の本がズラリと並んでいる。人気の高さを伺わせる。

  

 現在の高校野球では優秀な選手が有名校に集中、100人を超す部員が鎬を削る。一方、選手の集まらない公立の学校は連合チームを組んでいる。高いレベルで自らを高めたいと思えば当然の傾向で、この構図に物申すつもりはない。しかし大所帯のチームでは言葉は悪いが、選手が「飼殺し」状態になることは否定できない。

 野球部員の中には直線を走らせたら滅法速い選手や長距離走に秀でた選手がいた。腕力はもの凄いが捻る動作の苦手な選手もいた。その能力・特性を野球以外で活かせないものかと歯がゆい思いをしたことがある。

他校でプレーしたらいい選手になっていたのになぁ~。

他の競技なら素晴らしい能力を発揮したのになぁ~。そんな選手は実に多い。

 

 2021年日本の全国高校野球選手権への参加校は3603校であった。韓国の高校野球はシステムに大きな違いはあるが、実施している学校は80校である。韓国と同じく学歴社会の台湾では親が勉強以上に部活に熱中することを喜ばない。文武両道は小学校までという。

 

 2019WBSC  U-18ワールドカップが韓国で行われた。世界から12の国と地域が参加した。この時の侍ジャパンの投手陣は佐々木朗希(現ロッテ)、奥川恭伸(現ヤクルト)、宮城大弥(現オリックス)らである。

 

この時の上位の成績は次の通りである。

優勝:チャイニーズ・タイペイ

2位:アメリ

3位:韓国

4位:オーストラリア

5位:日本

6位:カナダ

  生活様式の違いや考え方の多様性から、自分の身体能力や性格を活かしたスポーツが生まれることは至極当然である。

 日本は野球選手万能の時代の呪縛から今ようやく解き放たれ、自分に合った自由な発想でスポーツを選択できるようになった。つまり本来の姿に戻っただけの事に過ぎない。

 また、幾多の優秀な野球人が時代に翻弄され、その理不尽さから大好きだった野球を断念した過去の歴史に目を背けることはできない。今こそ一人一人の選手としっかり向き合い、医科学に基づいた正しい指導をするときである。

 指導者は自己のエゴを捨て、刹那な快楽や優勝劣敗の考えを捨て、選手の長い人生の道先案内人でありたい。それがやがて日本野球界のレベル向上につながることだろう。 

                            By 佐藤 繁信

                                2021.11.25

   

アンリトゥンルール(Unwritten Rules)―暗黙の規則―

    アンリトゥンルール(Unwritten Rules)

                  ―暗黙の規則―

 

 野球というよりスポーツそのものに全く興味のない研究者は「野球なんて、勝ちたければエースに早いうちからぶつけてしまえばいいんだろ」とこともなげに私に言い放った。あまりにもストレートなその言葉を時々思い出すことがある。確かにそうだ。妙に納得した自分がそこにいた。

 スクイズの場面が来た。バッテリーはどこでウエストするか。固唾を呑んで見守る。すると投球は打者の背面に投じられた。素晴らしい!見事なスクイズ外しである。

 ただ、待てよ!?

 野球の国際大会が開催されるたびに話題になる言葉に「アンリトゥンルール」(不文律)がある。要するにルールブックに載っていない「暗黙の規則」である。

 野球でよく聞くのは、大差で勝っているチームは盗塁を試みてはならない。大差で勝っているチームは送りバントスクイズをしてはならないなどがある。こうしたアンリトゥンルールを知らない日本選手は国際大会で、外国人選手に時々手痛い報復行為を受けることがある。

 日本のスポーツマンシップは、どんなに大差で勝っていても最後まで手を抜かず全力プレーすることであり、手を抜くことは傲慢なチームと批判される。
 どちらが正解か!?日本には「武士の情け」「情けは人の為ならず」の言葉がある。日本人はその精神を大切にしたい。

 過去の国際親善試合で日本の投手は投球間隔が長く試合も長いと指摘された。これはサイン交換や相手がサインを盗むことを前提に、盗まれないようにするために複雑にならざるを得ない結果である。しかし、国際大会ではこの盗む、盗まれないためという考え方がフェアーではないとされる。ある時、日本の打者が捕手をチラリと見たところ、相手監督は「こんなチームとは親善試合はできない」と選手をベンチに引き揚げさせたことがある。

 

 思えば日本では、野球少年がルールの精神や歴史を学ぶ機会がまったくない。

 NPB(日本プロ野球)では新人選手研修会が毎年催されている。2021年はアンチドーピング、アンチ薬物乱用、暴力団の実態と手口など、どれも重要な問題ではある。しかし、スポーツマンシップや野球の歴史といった項目は見当たらない。相撲界には相撲教習所がある。そこでは入門すると相撲の歴史、実技、相撲甚句、一般常識などを学ぶという。

 

 相手がいなければ野球はできない。ならば相手に最大の敬意を払うべきである。大量得点にも関わらず、更に盗塁やスクイズで加点することは「死者に鞭打つ行為」で相手への敬意はない。相手への敬意こそが野球というスポーツをより楽しいものにする。そこにアンリトゥンルールの存在価値を見出すことができる。

 本来スポーツの目的は「楽しむこと」「健康になること」「ルールを守ること」にある。それは日本の少年野球の現状とはあまりにも対峙した考え方ではないか。

                           2021.10.28 By佐藤 繁信