永遠のドン・サットン投手
吉田式ピッチングマシンのデモンストレーションの為にフロリダ州・ベロビーチにあるドジャースタウンに行った時のことである。
何面かあるグランドの一角にマシンをセットした。そこにドジャース投手陣がバント練習のために次々と現れた。「Dodgers Blue」のユニフォームが眩しい。
限られた時間の中での練習。一球たりとも無駄な動きのない、妙に緊張感のあるバント練習が続いた。メジャー入りを目指し激しい競争にさらされている選手達の動き、血走った眼はそんなバント練習にも現れていた。
最後は「20番」ドン・サットン投手である。私の目は一挙手一投足に釘付けとなる。右打席で、次に左打席で・・・。左右どちらの打席でも遜色なく一球一球丁寧に一塁側、三塁側へとボールを転がしていく。まるでバットにボールが吸い込まれていくようなその感覚は他の選手とは別次元であった。
おっと、ボールを拾わなければいけない。
次の練習に向かうために慌ただしい選手達であったがほとんどの選手が私と一緒にボール拾いを手伝ってくれた。この予期せぬ行動?に私は驚き喜んだ。同時に彼らは「Thanks!」を決して忘れることはなかった。
余裕か貫禄か、いや優しさか、サットン投手は最後の一球まで地面に手を伸ばし、ボール拾いを一緒に手伝ってくれた。そればかりか「Thank you very much」と結んだからたまらない。
その後タウン内で私を見つけると肩を組んで一緒に写真を撮ってくれた。日本人とさほど変わらない体型、ゆっくりした美しいフォームから投げ込まれる豪速球は大いに参考にしたい。
大リーグ通算324勝、17年連続2桁勝利、歴代7位の奪三振はその人間性と共に賞賛に値する。
あの日から33年、2021年1月19日、ドン・サットン投手は75歳の生涯を閉じた。
満面の笑顔のサットン投手とひきつった私の笑顔のあの時の1葉の写真を眺め、スーパースターの余韻に浸ろうと思う。
By 佐藤 繁信