アンリトゥンルール(Unwritten Rules)
―暗黙の規則―
野球というよりスポーツそのものに全く興味のない研究者は「野球なんて、勝ちたければエースに早いうちからぶつけてしまえばいいんだろ」とこともなげに私に言い放った。あまりにもストレートなその言葉を時々思い出すことがある。確かにそうだ。妙に納得した自分がそこにいた。
スクイズの場面が来た。バッテリーはどこでウエストするか。固唾を呑んで見守る。すると投球は打者の背面に投じられた。素晴らしい!見事なスクイズ外しである。
ただ、待てよ!?
野球の国際大会が開催されるたびに話題になる言葉に「アンリトゥンルール」(不文律)がある。要するにルールブックに載っていない「暗黙の規則」である。
野球でよく聞くのは、大差で勝っているチームは盗塁を試みてはならない。大差で勝っているチームは送りバントやスクイズをしてはならないなどがある。こうしたアンリトゥンルールを知らない日本選手は国際大会で、外国人選手に時々手痛い報復行為を受けることがある。
日本のスポーツマンシップは、どんなに大差で勝っていても最後まで手を抜かず全力プレーすることであり、手を抜くことは傲慢なチームと批判される。
どちらが正解か!?日本には「武士の情け」「情けは人の為ならず」の言葉がある。日本人はその精神を大切にしたい。
過去の国際親善試合で日本の投手は投球間隔が長く試合も長いと指摘された。これはサイン交換や相手がサインを盗むことを前提に、盗まれないようにするために複雑にならざるを得ない結果である。しかし、国際大会ではこの盗む、盗まれないためという考え方がフェアーではないとされる。ある時、日本の打者が捕手をチラリと見たところ、相手監督は「こんなチームとは親善試合はできない」と選手をベンチに引き揚げさせたことがある。
思えば日本では、野球少年がルールの精神や歴史を学ぶ機会がまったくない。
NPB(日本プロ野球)では新人選手研修会が毎年催されている。2021年はアンチドーピング、アンチ薬物乱用、暴力団の実態と手口など、どれも重要な問題ではある。しかし、スポーツマンシップや野球の歴史といった項目は見当たらない。相撲界には相撲教習所がある。そこでは入門すると相撲の歴史、実技、相撲甚句、一般常識などを学ぶという。
相手がいなければ野球はできない。ならば相手に最大の敬意を払うべきである。大量得点にも関わらず、更に盗塁やスクイズで加点することは「死者に鞭打つ行為」で相手への敬意はない。相手への敬意こそが野球というスポーツをより楽しいものにする。そこにアンリトゥンルールの存在価値を見出すことができる。
本来スポーツの目的は「楽しむこと」「健康になること」「ルールを守ること」にある。それは日本の少年野球の現状とはあまりにも対峙した考え方ではないか。
2021.10.28 By佐藤 繁信