科学する野球 16
―村上 豊 講習会―
*1994年5月、講習会の全ての文言を掲載
【なぜ?の疑問を】・・・バットの握り方
バットの握りに関しても「なぜ君はそのように握るんだ。」と問いかけられても、「いや、何となしに昔からやっていた。」「いや先輩に言われた。」とか「手の第二関節と第二関節をくっつかせなさい。」とかそんなことを言います。

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縦割りの握り方=剣道? |
しかしなぜこんな風にトンカチで力を求めるための合理的な理にかなった握り方があるのに、監督・コーチから「その握り方では力が発揮できないじゃないか、力が入らないじゃないか」(手の第二関節と第二関節を合わせるという握り方)といわれた場合、「なぜですか?どう握ったらいんですか?なぜ力が入らないんですか?」と質問する人もいない。
なぜ両手の第二関節と第二関節を合わせるこの握り方がいけないかと言えば、この握り方は「縦割りの握り方」なんです。剣道の握り方なんです。上から下へ力を入れるのには良い握り方なんです。ところが野球は、投手の方向から投げ込んできた投球に対して、剣道のような「縦割りの握り方」をしたのではダメなんです。
事実明治時代に、おもしろい話があるんです。私の親父が旧制浜松一中の野球部の卒業生なんですが、その浜松一中でどんな練習をやったかというと、投手方向からボールを投げさせて「オメーン」と大声をあげながら、ボールを下に叩き付ける練習をしたということなんです。私は唖然としましたね。ところがそんな練習をしているところが未だにあるんです。愛知県にあるんですが、これがしゃがみ込んで、未だに薪を割るようなこんな格好をして練習をしているんです。
だから物理を知らない人たちは盛んに間違った時間を使ってしまっている訳なんです。だけどいくら時間を使ってもうまくはならないんですね。無駄な時間を使っていることになる訳なんです。
なぜこの格好が悪いかというと、この後ろ肘が上がらないんです。このように絞ってバットを握ると肘が上がらないんです。肘が上がらないのがなぜ悪いかというと、バットをボールと見立てて下さい。ボールを投げるのに皆さんはどうするかということです。肘を後方に上げるでしょう?
バットをボールと見立てたとき、このバットは肘を上げて「投げる」でしょう。そうして肘を上げて投げてやればスピードが出るでしょう。それを肘を上げないで絞って投げたらどうなりますか。スピードが出ないでしょう?ボールを投げるのは肘から投げるんですから。
バットも肘から上げていかないとスピードが出ないでしょう。それを手から叩き付けようとしたってダメなんですよ。これは剣道なんです。ダウンスイングでこんなコトしたってダメなんですよ。分かるでしょう?理屈が。

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右手の外捻 |

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左手の内捻 |
理屈が分かってくると、どうしたらいいのかな、とドンドンと自分の考えが固まってきましたね。「ははあ、バットの握り方一つ違うんだな」と。

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空手打ち |

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後ろ肘を上げる |
右打者であれば、右腕を外側に向けながら(腕の外捻)左腕は内側に向けながら(手の甲を上に向ける・内捻)、空手の構えを作るわけですね。その空手の構えから後ろ肘を後方に上げていくわけです。空手の構えだから肘が後方に上がっていくわけです。
【所 感】
「ゴロを転がせ!」は軟式野球の試合で飛び交う怒号。軟式野球ではゴロを転がすことによって相手のエラーを誘い、それによって得点するのが効果的とされる。そのゴロを転がすのに有効な打ち方は剣道のような「縦割りの握り方」か?ヒットやホームランをいかに打つかを追求するかエラーを期待した打球を追求するかは指導者の考え方である。しかし将来を見据えた指導となれば当然、ヒットやホームランをいかに打つかといった指導であろう。ホームランを打つには当然打球を上げなければいけない。叩きつけたのでは打球は上がってくれない。打球を転がすときと打球を上げる時の腕の使い方は同じであるはずはない。
相手のエラーを期待した勝利を目指した指導は必ずしも将来にはつながらないことを指導者は知る必要がある。軟式野球の指導でこうした考え方が横行しているように感じられる。それはその選手の次のステップを阻害していることになる。
2026.7.3
By 佐藤 繁信
*村上豊氏の文書の複写、転載は禁止します。








