庄内ボーイズ・活動日誌

山形県庄内地域で活動する野球チーム『庄内ボーイズ』の活動内容です

選手の旬とチーム

       選手の旬とチーム

 

 

 家庭菜園と中学生の野球指導を同じ頃に始めた。

 

 野菜作りの知識は全くなく、とにかく種や苗を購入し植えてみた。やがて種は芽を出し、苗は育つ。中学生の野球指導は、これまでの知識と経験を伝えることにした。しかしどちらも甘かった。

 

 野菜作りをするにはあまりにも基礎的知識が稀薄すぎた。

 

 中学生の野球指導をするには成長痛やオスグッド・シュラッター病、発育型の肘痛などとの向き合い方が不十分であった。

 そして野菜に「旬」があるように、選手一人一人にも「旬」があり、それに合わせた指導法が必要不可欠であることを痛感する。

 

 中学生の学年の違いによる体力・身体能力・学力の差が想像以上に大きいことに戸惑った。一律の指導の限界を感じた。

 

 野菜を育てるのに最も重要なことは土作りだという。ならば上手な野球選手を育てるための土作りとは何か。

 

 野菜は肥料を入れ過ぎても水をやり過ぎてもいけない。その種を蒔く、苗を植える時期も当然異なる。また同じ土壌で作り続けると土も痩せてくるし、病害虫も発生しやすくなる。

 では野球練習の教え過ぎとはどこまでか。バント守備は教えたい。外野からの連係プレーも重要。トレーニングがハード過ぎては逆効果だろう。ウエイトトレーニングは?走り込みの必要性はあるか。

 オーバーロードは故障のリスクが増すばかりだろう。故障や障害だけはどんなことがあっても避けたい。選手を育てるということは、指導者の自己顕示欲を表現する場であってはならない。あくまでも選手の大いなる将来のためでありたい。

 走攻守といった野球の全ての項目において平均点以上を求めてはいくら時間があっても足りない。ウィークポイントがあってもいいのではないか。

 何といってもこの時期、選手たちの本業は野球ではなく学業にある。

 とは言えチームに勝利は求められる。勝つチーム作りと多様性を認める懐の深い指導とはどこにあるのか。各学年の中にも早生の選手もいる。晩生の選手もいる。それぞれ「旬」の時期の異なる選手をどのように指導すればいいのだろうか。

 

 四本足で大地を踏ん張り野菜や草と向き合うと色々なアイデアが浮かんでくる。

 野菜にはそれぞれの野菜にあった育て方がある。野球指導もその選手に合ったそれぞれの方法があり、タイミングがあるだろう。

 

 今、中学生は乾坤一擲の勝負をする時ではない。出来ないからと怒ってはいないか。見放してはいないか。横並びの指導をしてはいないか。

 その後の人生にとって最も大事な中学生時代を預かる指導者の責任は実に大きい。

 土壌をしっかり作りたい。

 矛盾と葛藤の日々は続く。

                        2021.10.7 By 佐藤 繁信

軟骨の増殖を待つ

  高校時代、肩痛に悩まされていた私は病院へ行った。そこで処方されたのが「ヒルドイド」であり、その後「モビラート」へ変わったように記憶している。

 ヒルドイドやモビラートはいずれもドイツ製の鎮痛剤で、当時としてはかなり高価な薬であった。サロメチール(日本製)もあったが、私は医学先進国ドイツの薬を塗布するというだけで治ってしまったような気になった。いわゆる「病は気から」である。確かにプラシーボ(偽薬)効果?はあったが、実際は悪化の一途をたどっていたと今になって思う。それはより刺激的な効果を求め「ヒナルゴン」を塗布するようになったことからもわかる。塗布後の灼熱感は半端ではなかった。  

 

 あれから半世紀が過ぎた。野球少年の「肩・肘」の故障増加は大きな問題である。ある病院に診断に来た中高生41%が肘の故障の既往歴があったという。実際に指導してみるとこの数字が決して大げさな数字でないことがわかる。今の練習は、障害を起こすために練習をしていると言われても何の言い訳もできない。

 

 指導者は肩・肘に違和感のある選手が医者に行くことを半ば嫌う。レベルの高い選手ほど障害を訴える選手が多く、次の試合に差し支えるからである。そして医師が告げる言葉は異口同音に「絶対安静、ノースロー」であることを知っている。

 

 医者に行った選手に「どんな薬貰った?」と聞いた。「何もくれなかった」と選手は言う。その代り理学療法士によるリハビリの手順が示される。

 

 考えてみれば損傷した箇所に何を塗布しても効果はないだろう。肘の故障の一番の原因は成長過程にある軟骨の増殖を妨げることである。静かに軟骨の増殖を待つことが一番の治療法で、時間が最高の処方薬であろう。

 

 最も良い少年野球の指導者はこうした故障した選手に対し、「待つ勇気」を持つことだろう。

 

 肩・肘のケアに必死に取り組んだあの頃を思い出し、これは医学の進歩というより「変化」ではないかのと感じた。

                           

                             By 佐藤 繁信

                               2021.9.9

OHIO!(おはよう!?)

       OHIO!(おはよう!?)

 

 ここはフロリダ州ベロビーチにあるドジャースタウン。現在LAドジャース星野監督率いる中日ドラゴンズのスプリングキャンプが行われている。

 フロリダの空はいつもどこまでも抜けるような青空だが、今日は珍しく曇り空、今にも泣きだしそうである。

 タウン内では早朝にもかかわらず、すでに数人のファンがジャッキーロビンソン通りの散策を楽しんでいる。通りに面したハンバーガーやコーンを販売するショップの店員が、皆忙しそうに準備に追われている。春休みのアルバイトと思われる女子高生の、きびきびとした動きと笑顔が爽やかである。

 すると、私達を見つけた一人のいかにも陽気なアメリカ娘が大声で叫んだ。

 「OHAYO~!(おはよう!)」

 次々に娘たちが「OHAYO」「OHAYO」と手を振ってくれた。

 星野監督の人気もあり日本人観光客も多いのだろう。どこから見ても日本人にしか見えない私達に精一杯の愛嬌を振りまいてくれた。

 すると一緒にいた仲間の一人がアメリカ人に勝るとも劣らない大袈裟なジェスチャーを交え、真顔でこう叫んだ。

 「We are not from Ohio!?from Japan!」

(私達はオハイオ州から来たんじゃないよ、

日本だよ。)

 それを聞いた娘たちは一斉に手をたたいて大声で笑いだし、大喝采となった。

 屈託のない娘たちの笑顔が今日の曇り空を吹き飛ばし、私たちの心にはいつもの青空が広がった。

                             2021.7.7 佐藤 繁信

  *1988年2月大リーグスプリングキャンプ巡りでの珍道中の一コマである

村上豊氏を偲ぶ

         

        村上豊氏を偲ぶ

                ―「科学する野球」著者―

 

 「科学する野球」の著者村上豊氏をご存知だろか。

 初めて出会ったのは1987年11月23日創設間もない花咲徳栄高校(埼玉県)のグランドであった。私はこの時、村上氏への知識はほとんどなく、今までと違う野球理論を提唱する変わった人物という噂程度であった。

 ところが実際にお会いし、話を聞くと全く違う世界へと引き込まれる自分がいた。

 指導者としての壁を感じていた私は、1994年5月、高校生への指導を依頼した。

 

 指導はグランドではなく、教室での座学から始まった。

「大体、監督をやっておられる先生は私の話なんか聞こうともしないで、自分でやってこられた経験と知識だけで、物理に反したことを平気で教える人が随分多い」

そんな辛らつな言葉から講義は始まった。

 

 当時の私の感想である。

 ―ほとばしる情熱と卓越した野球理論、それは私の野球指導者としての常識をはるかに超えたものであった。野球指導書、プロ野球選手による野球教室、専門家による野球講習会、残念ながらいずれも私を満足させるものではなかった。むしろ参加すればするほど、疑問と矛盾だけが沸き上がってくるのであった。

 その多くの疑問のカギを開けてくれたのが村上氏であった。

 今思えば1988年の大リーグ・スプリングキャンプ巡り(米・フロリダ州)から私の日本野球への疑問は始まった。こうした行動が村上氏と邂逅するきっかけになったことを幸運に思うー

 

 講義の内容の一部を羅列する  

  • 回転と捻り 
  • 野球動作の基本は捻って捻り戻して捻る 
  • ウエイトトレーニングはヒマ人のやること ●伸筋と屈筋 
  • 上半身と下半身のケンカ 
  • 慣性モーメント
  • 日本人の「入」と大リーグの「人」の違い
  • 現代野球の元祖ベーブ・ルース「なぜあんなに飛ぶのだろう?」 
  • ステップについてー打つためにステップする選手はヘタクソ

                           等々

 

 「科学する野球」全8篇を読破しても、内容を理解することは至難の業である。この時の講演はそれらを集約した高校生にも理解しやすい内容であった。

 この講演の1年後1995年7月、村上氏は77歳でこの世を去ることになる。

 その後村上氏の野球理論は今日まで正しく評価されることなく月日が流れていく。

 1995年は野茂英雄投手がある意味日本球界に背を向けてアメリカに渡った年でもある。野茂投手やイチロー選手の体の使い方を「正しい」と理論的に評価、説明できた人は当時村上氏を置いて他にはいなかった。

 私の手元にこの時の講演記録や東京・三田のご自宅から頂いた遺稿がある。後世へ残すべきと考えている。

                           2021.6.19 By佐藤 繁信

 

ピッチスマートに思う

   ピッチスマート

 

 先日少年野球を観戦した。イニングが終わると球場には「〇〇投手、先ほどの投球数20球、合計40球です」とアナウンスの声が響く。

 こうした日本の投球制限は2014年MLBメジャーリーグベースボール)が医師など専門家の意見を取り入れて提唱した「スマートピッチ」(硬式ボールを使用した場合のガイドライン)を参考にしていると思われる。

 世界的に見ても日本の小学生の肩・肘の故障(要因の一つは1年中野球漬けの毎日)は多いという。少年達の体を守るのは大人の責任である。一つの方向性として投球制限は正しいと思う。

 傍らで次の試合に備える両チームの練習が目に飛び込んできた。ノッカーが試合では見られないような鋭い打球を外野に飛ばしている。選手達は必死にそのボールを追い、返球している。

 しかし、グラブの使い方も然ることながら、投げる姿に愕然とした。顔をアッチ方向に向け体が開く選手、肘が極端に下がった選手、投げる腕が伸びたままの選手、手のひらでボールを押し出す選手等々。

 これは投球制限以前の問題ではないか!?

 アメリカの長いベースボールの歴史の中でなぜ今「投球制限」が必要になったか不思議に思う。近年になり少年達の肩・肘の故障が急激に増えたのだろうか。少年達の野球環境に何か変化が起きているのだろうか。

 以前、アメリカのベースボールの指導者は目先の勝利ではなく、将来を見据え、いかに有能な選手を輩出するかを目標にしてきたという。また少年たちはベースボール以外にバスケットボール、フットボールなどをシーズン毎にそれぞれバランスよく楽しんでいた。

 それが現在は全米各地の温暖な地で一年中色々な大会が催されるようになった。そこで勝利し、スカウトの目に留まることが最優先され、無理をする選手が多くなったという。 

 当然レベルの高いチームは試合数も多く、練習量も多くなる為、肩・肘の故障の発生率が高くなってしまう。

 大人の「マネー」の為に少年達の健康が犠牲になってしまったということか。

 しかしMLBはそうしたアメリカの少年野球を取り巻く環境変化を放置することなく迅速に対応した。それが「ピッチスマート」である。

 「投げ過ぎ」と「正しい投げ方」は並立して考えるべきではないか。前述のように正しいと思われる投げ方をしている少年は残念ながらほとんどいなかった。理にかなった投げ方により肩・肘へのストレスを軽減し、予防することは指導により十分可能であろう。

上腕三頭筋の向き ②背筋の収縮 ③後ろ脚の折れ ④ステップの仕方 ⑤前足の閉じなどのチェックを十分に行いたい。

 少年野球に遠投は本当に必要か。全力投球は必要か。100%の投球ではなく70%の投球強度で故障は防げるというデータ(「野球医学」の教科書:馬見塚尚孝著)がある。20M程の距離を素早く、しかも正確に投げる方法を模索したい。

 人生100年時代を迎えようとしている。10代での腕の故障は長い将来の健康を阻害することになる。元球児の合言葉「もう肩、上がらない」とどこか誇らしげ?に肩を回すしぐさはおかしいことに気がつきたい。公園で孫と楽しくキャッチボールが出来ることが理想であり、そうした姿こそが日本の野球人口減少の歯止めになると信じる。                        

                          2021.5.28 By佐藤 繁信

 *4年前に「THE  ARM(剛腕)」(ジェフ・パッサン著)という本に出会った。強い衝撃を受けた。その日からしばらく指導に対する自信を失ったことを思い出す。そして少年たちを手術台に送ってはいけないと誓った。

 

愚かさを知る  ―ダニング・クルーガー効果―

 

         愚かさを知る

              ―ダニング・クルーガー効果―

 ある酒屋に並んでいた大吟醸”ひとりよがり”に目を奪われた。目が奪われたというよりも心が奪われたのかもしれない。正にその時の私自身の生き方を現している言葉のように思われ、ハッと我に返った瞬間であった。

 あれから30年ほど経ったろうか。「ダニング・クルーガー効果」の図を目にし、「ひとりよがり」以来の強い衝撃を受けた。

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 ダニング=クルーガー効果とは、能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアス(精神の傾向。偏見。偏向)。この現象は、人間が自分自身の不適格性を認識することができないことによって生じる。「優越の錯覚を生み出す認知バイアスは、能力の高い人物の場合は外部(=他人)に対する過小評価に起因している。一方で、能力の低い人物の場合は内部(=自身)に対する過大評価に起因している。」と述べている。

                         ―ウィキペディアよりー

 

「素人ほど大口をたたき、専門家ほど慎重な発言になる」ということである。

野球ファンは総評論家であり、それがまた野球の楽しみ方でもある。野球場やTVの前で薄っぺらい知識や持論をぶち上げながらの野球観戦は最高のストレス解消である。時に静かに話す専門家以上の勢いでまくしたてられるとそれが奥深い真実のようにも思えてしまう。

 日本のプロ野球を代表するバッター谷沢健一氏(元中日)と掛布雅之氏(元阪神)の対談の進行をした時である。二人の打撃論は止まる所を知らない。ある時は椅子から立ちあがり身振り手振りと白熱したものだった。聞いている私はその打撃論にただただ感心して聞き入るだけであった。球界を代表する二人のスラッガーの対談は正に「専門家」の域に達した議論である。命を懸けてバットを振り続けた人間にしか到達できない打撃の奥義がそこにはあった。

 

「上から叩け」「ゴロ転がせ」そこに理論は存在しない。いや少年野球に理論は無用とばかり連呼する。

 しかし、野球を指導する上で正しい知識・理論はやはり必要だろう。「胸に投げろ」が野球の基本だろうか?案外わからないことが多い。

 

 「自分は知識があり、他人より優れているという錯覚」をしてはいないか?根拠のない自信はどこからくるのだろう。そっと胸に手を当ててみることにしよう。指導者はダニング・クルーガー効果に陥らないためにどうすればいいのか。

 指導者の学びへの謙虚さと選手へのリスペクトを忘れてはいけない。

 

                          2021.5.5  By佐藤 繫信

 

奪え、ポジション! ―数値化―

 

                奪え、ポジション!     ―数値化―

 

  選手は一生懸命に練習に取り組んでいる。みんなを試合に出してやりたい。だが公式戦を控えポジションを決めなくてはいけない。そんな中、どうしても決めきれないポジションがある。

  さてどうしよう?

 みんなが納得する方法はないものか。そんな時一つの方法論として浮かんだのが数値化である。

 最初に「このポジションをやってみたい人」と挙手をとった。5人が立候補してくれた。  

  コーチの打つノッカーの打球音から野手のグラブに納まる音までの時間をストップウォッチで測定することにした。ノッカーの打球速度や方向による誤差は回数の平均で補うことにする。送球の正確性は複数の指導者が4段階(エラーをゼロとする)で評価した。

 「さぁ、いくぞ!」

 ノックの順番は決めていない。最初にノックを受けた選手に心意気として10点をやりたいところだ。

 一日目は

①正面のゴロ捕球から一塁送球

ダブルプレーは捕球からセカンドまでの送球 

③前進バックホームは捕球から捕手への送球。それぞれのタイムを複数回測定した。

 二日目は

①正面のゴロ捕球から一塁送球 

ダブルプレーは昨日とは逆に2塁ベース上で送球を受け、一塁送球 

バックホームはランナー1・3塁をカットプレーで本塁送球とし、それぞれのタイムを

    複数回測定した

 

  【課題と考察】(羅列)

 

①明らかなイレギュラーは再度ノックした

②エラーの扱いは課題である。全体にエラーを恐れるあまり慎重なグラブさばきが見ら

   れた(正面のゴロ送球は4秒3以内の基準はもうけたが)

③思い切って勝負をかけたプレーの評価をどうするか

④緊張感があり、選手にとってはいい経験となった

⑤それぞれのプレーの選手の得手不得手を再確認できた

⑥挑戦したすべての選手を評価したい

⑦3年で挑戦した選手を特に評価したい(ノックも一番で受けていた)

⑧日頃の練習より打球の処理が素直だったり、動作の柔らかさが見られたり、新鮮であ

    った

⑨最終的にはバッティングを加味し、総合評価とする

⑩数値―平均化は選手を評価する一助になる

⑪全体への説明でも納得する様子が伺えた

 なんでも数値化することを嫌う人もいる。実は私もその一人かも知れない。そう思いながらも「数値は嘘をつかない」事も自覚しなければいけない。

 これからも数値とうまく付き合っていきたいと思う。人間らしく。

                                                                          2021.4.30  By佐藤 繁信